「富士都留店」に続き、来週には「秩父店」の工事が始まる。これで、夏休み前には本州で「旅籠屋」のない府県は青森、神奈川、富山、福井、愛知、和歌山、京都、大阪、兵庫、岡山、鳥取、島根のみとなる。店舗数を追い求めているわけではないし、全国制覇などという言葉への憧れもないが、ロードサイドホテルというインフラ施設を津々浦々に普及整備させて、自由な旅の受け皿のひとつにしたいという夢が実現していくのはとても嬉しい。
そんなわけで、以前から早く九州にも店舗を誕生させたいと努めてきた。ところが、これがなかなか実現しない。じつは昨年の秋、ある有名観光地での出店が決まりかけたが、最後になって白紙に戻ってしまった。ほんとうに、ほんとうに残念である。念願の九州1号店が消えただけでなく、実現していれば地域貢献の理想的な姿となる可能性を秘めていたからである。
最近、地方の自治体から出店の打診をいただくことが少なくない。宿泊施設は域外の方が長時間滞在するため確実な経済効果が見込まれる。「旅籠屋」のような宿泊特化の宿であれば、食事も買い物も地元の施設が利用されるわけだから尚更である。そして、宿自身が集客のために地域PRを行う。一過性でない地域振興を長期間にわたって担い続けることになるのだ。
加えて、宿泊施設は遊休地活用という面がある。予約客中心だから、必ずしも幹線道路沿いでない土地でも生かされる。「建て貸し」であれば、地主・家主である地元の企業や個人は家賃という形で長期間にわたる収入を得ることになり、地元の建築会社に仕事が生まれ、資金調達を通してお金が回っていくことになる。
今回の件は、ある町の観光協会からの一通の問い合わせメールから始まった。
全国に知られる観光地でありながら、民宿以外の宿泊施設がない。全国的に名の知られた町でありながら観光シーズンに偏りがあるため大規模な施設は難しく、訪問者は近隣の街に流れて行ってしまう。町有地を借り、観光協会自身が建築資金を負担して、「旅籠屋」がホテルの経営と運営を行う、というスキーム=枠組みである。町役場、町議会、地元の金融機関への提案と説得も進んでいるという。
国の補助金や大手ディベロッパーの投資を待つ他力本願ではなく、町自身が資金を調達しリスクをとって宿泊施設を実現しようというアイデアと熱意に目からウロコが落ちる思いだった。これが実現すれば、全国の自治体が自力で施設誘致を行い、自ら地域振興を具体化する画期的な先例になる。損得計算は二の次で、この計画に参加するのが「旅籠屋」の使命だと即断した。
間を置かずに建物の基本計画や出店条件をまとめ、現地に向かった。町長さんや議会議長さん、担当部署の方々を前にプレゼンを行い、皆さんの熱意と理解を確認することもできた。あとは、議会の承認をいただくだけという段階を迎えた。昨年末の話である。
しかし半月後、冒頭にも書いたとおり、計画は突然すべて白紙に戻ってしまった。たったひとつ、観光協会が行う借入れについて、町が銀行に対する損失補てん契約を行う点についてトップの決断が得られない、そのハードルだけが越えられなかった。
調べてみると、夕張市が破綻した後、総務省から自治体による損失補てんは原則禁止という指導が行われたとのこと。あくまで原則だから、首長判断で踏み切ることは可能なのだが、簡単な決断ではないということらしい。長期間にわたる責任が生じることを考えれば、慎重を期したいという判断も理解できないことではない。
こうして、九州への初出店の話しは幻に終わってしまった。もちろん、同時に通常の出店の話しは進んでいるから、遠からず「旅籠屋」は九州のどこかでオープンするだろう。しかし、そこに住む人たちが皆の知恵と勇気と意志が光り輝やく一灯は掲げられることなく消えてしまった。
残念である。ほんとうに、ほんとうに残念である。しかし、こうしたスキームはどこでも応用できることである。きっと、いつかどこかで・・・。



