運輸省は、「観光情報データベース」を構築するそうだ。概要を紹介する。
1.全国のホテル・旅館・観光スポット・飲食店などのサービス内容、料金、地図などを一元的に集約する
2.インターネットで誰でも自由に無料でアクセスできるようにする
3.日本語だけでなく、英語版・中国語版・韓国語版も用意し、外国人観光客の需要喚起を図る。
4.データの信頼性を維持するために、掲載施設にアンケート用紙の設置を義務付け、クレームが多い場合は改善を求めるなどの処置も検討する。
5.データベース自体は外郭団体である「国際観光振興会」に設置する。
6.新規事業の柱のひとつとして位置付け、来年度予算の概算要求に整備費として10億円を盛り込む。
このニュースはプライベートな業界情報サイトや業界新聞日本海事新聞)などに発表されたのだが、不思議なことに肝心の運輸省や実際にこのシステムの管理運用を行なう国際観光振興会のサイトにリリース内容の記載はない。どこで原文が見られるのだろう。
それはともかく、私はこのニュースを読んでひじょうに不愉快な印象を持った。はっきり言って大反対である。余計なお世話だ。金の無駄だ。
断言しよう。よしんば10億円の予算がついたとしても来年度中の構築は不可能だし、スタートした後も使い物になど決してならないし、廃墟のようなサイトになるだろう。私の意見は以下のとおりだ。
1.自由な市場に任せれば良い。今は、役所の関与ではなく、関与の撤廃こそ必要。発想を変えろ。
ニュース記事のなかには、データベース構築の目的が明確に記されていないが、表向きの目的は、一元的に管理された「公正な」情報を利用者に提供することによって、その利便性を図り、観光業界の健全な発展と近代化を促す、というあたりだろう。
冗談じゃない。私のような新参者であっても観光業界の抱える構造的な問題を実感するが、その結果は何より利用者の減少による経営破綻という形ですでに淘汰が進んでいるのだ。役人が「公正な」情報をまとめなければ業界の健全な進歩がないという発想そのものが利用者や企業家をバカにしている。少なくとも当面は、市場のメカニズムに委ねておけば良いのだ。
いっぽうで会計検査院の発表によれば、厚生省・社会保険庁、郵政省、雇用促進事業団、簡易保険福祉事業団、年金福祉事業団が設置し、宿泊設備を持った三百七十施設のうち半数以上が赤字経営に陥っているそうだ。公的機関だからこそ、安価で質の高い施設が提供できるということで作られたのだろうが、これも役所が民間を見下し、不信感を持っているという意味で同じ発想にもとづくものだ。
直接間接に多額の公的資金をつぎ込み、しかも周辺の民間の宿泊施設の営業を妨げている。コスト意識の欠落した放漫経営、または補助金の額を確保するための粉飾経理。公然の秘密だ。
東京オリンピックを契機として、ガイドラインという名のさまざまな規制を業界団体の整備とあわせて築き上げてきたことが今や構造的な問題の解決を困難にしている。ある時代において合理性のあった政策や法律がその後の業界の発展と新陳代謝を妨げている。
業界団体への加盟と推薦がなければ公的融資の申請ができない仕組み。。ガソリンスタンドやレストランは建てられても宿泊施設は限られた地域にしか建てさせない法律。それだけで分厚い1冊の本ができているほどの行政指導。既得権と硬直化した業界秩序から手を引け。今はそのことが利用者の利益につながる。
2.官製のデータベースに生きた情報は集まらない。金の無駄だ。
今ごろ運輸省が言わなくても、観光情報がインターネットに適した、利用者のニーズの高い情報であることなど、誰もが知っている。会員登録が不要で誰もがアクセスできるデータベースは、いくつもある。例えば
やど上手、やどかり、全国旅行・観光情報、ホームページを持っているペンション一覧、みんなのペンション広場、宿泊施設一覧、日本の宿
いずれも、会員登録不要で自由にアクセスできるサイトばかりだ。宿のほうでの登録ももちろん無料だ。
こうしたサイトの多くは、有用な情報を集めてアクセスを増やし、バナー広告を勧誘することによって維持費をまかない、収益をあげようとしている。だから、情報が少なかったり、鮮度や精度が低くなればアクセスが減り、淘汰されるリスクを背負っている。お役人は、運輸省が号令するのだから黙っていても情報は集まるだろうとタカをくくっているのだろうが、私は上に挙げた民間サイトの担当者がひとつひとつの観光地をまわりながら情報の提供を頼んで回っていた努力と苦労を知っている。掲載無料であっても、データベースと呼べるほどの情報を集めるのは容易なことではないのだ。
そもそも運輸省のサイトに広告なんか載せられるの?聞こえの良いお題目だけでサイトの構築やメンテなんてできるわけがないのだ。ウェブサイトのメンテや情報の収集を甘く見てるんじゃないの。
だいたいどこから10億円なんていう数字が出てくるんだろう。天下り先の外郭団体に仕事を世話して予算をつけようというのが本音なのだろうが、子供だましは止めにしてほしい。だいたいこういうニュースを無批判に掲載するマスコミも情けない。今のうちに計画をつぶしておかないと予算がつくと既成事実になってしまうのだ。
3.生であること、多様であることが情報の値打ち。情報の一元化やアンケートの効果なんて幻想だ。
上に挙げた民間のデータベースの多くに「旅籠屋」も情報を登録している。その時に困るのが、指定された定型のフォーマットを求められることだ。例えば、料金の欄は「1泊2食付きの1人料金」、宿の種別は「旅館・ホテル・ペンションの中からの選択」だったりする。「旅籠屋」にはなじまないのだ。
記事によれば、運輸省の計画するデータベースでは希望の料金を入れると検索結果がでるような仕掛けを作りたいらしい。一見便利そうだが、それはサービスの形態や料金システムが共通している場合にしか成り立たないことを見落としている。これでは新しい業態やサービスを提供しようとする施設をはじき出すことになる。テーマパークにおける入場料と施設ごとの料金の組み合わせ方もいろいろでしょうに。
およそサービス業というものは、無形のものを提供している部分が大きく、料金という項目で一律に検索することが難しい場合が多い。飲食施設であれ、宿泊施設であれ、断片的な情報では判断できないものだ。そういう中にあって、インターネットというものはその施設の発信する生の情報に直接触れることがことができるという意味で、とても貴重なものだと思う。「旅籠屋」のような新しいスタイルの施設がホームページを持つことの意味はそこにある。
情報の一元化だ、アンケートの設置義務だ、どれも役人が机の上で考えたアイデアなのだ。自分勝手な客が実情を知らない相手に書き送ったクレームなんて、誠実で的確な改善の邪魔になるだけだ。
めずらしく、長々と書いてしまった。かなり感情的になってしまったので論理的でないところ、説明不充分な所もあるが、言いたいポイントは書いたつもり。「ゲストブック」へご意見をお寄せいただければ幸いです。



