アメリカのMOTELのような、誰もが気軽に利用できるシンプルで自由な宿泊施設を日本にも普及させたい。そう思い立って20年が過ぎました。

幸い、たくさんのお客様からの支持をいただき、店舗も本州から四国や九州へ広がってきました。その点だけを見て、商売繁盛ですね、と声を掛けてくださる方もあるのですが、それは違うんですと申し上げたくなります。


というのも、ようやく安定して黒字を出せるようになったといっても、その額は実質で毎年1000万円程度ですし、そもそも売上高や店舗の数などを目標にはしていないからです。

例えば、店舗の数。40近くに増えましたが、それはこうした宿泊施設を全国津々浦々に誕生させて、自由な旅のスタイルを提案し、サポートしていきたいという願いがあってのこと。ですから、赤字の店舗であっても撤退したことはありませんし、今後もそのつもりはありません。また、収益性の高い大都市圏ではなく、あえて地方の空白地帯に優先して出店してきました。


次に、多様性への対応。旅は個人の自由の象徴であり、そのためには可能な限りすべての旅行者を分け隔てなく受け入れ、さまざまな旅の受け皿になろうというポリシーです。そのために、手間や費用が増えるのを承知でバリアフリールームや非常用発電機を設置しペット同宿の受け入れなどを続けてきました。お客様からのお叱りにも関わらず使い捨てのアメニティグッズを置かず、全館禁煙に踏み切らないのも同様の理由です。自由を尊重することはお互いが違いを受け入れ少しずつ我慢しあうことだと考えているからです。


そしてもっとも大きなことは、役所との許認可手続きや、施設所有者の方々との交渉の進め方です。ひとことで言うと、目先の効率や結果を優先させず誠実でまっとうなやり方にこだわってきました。

素泊まりのロードサイドホテルというのは日本では新しい業態の宿泊施設ですから、法令は足かせになり、世間の目は偏見で曇っています。ついつい顔色を伺ってご機嫌をとりたくなるのですが、あえて審査会を重ねたり、審査請求をしたり、何年もかけて説明会を繰り返したりしてきました。


商売繁盛と言われて感じる違和感は、効率や利益にとらわれず努力してきたのに、一部の数字だけしか見られていないという悔しさなのです。


今までなかった商品やサービスを提供するという意味で、「ファミリーロッジ旅籠屋」は、間違いなくベンチャービジネスと呼べるものだと思います。しかし、ベンチャー企業は既存の企業が打ち破れない旧弊や価値観に風穴を開け、問題提起をしていくことにこそ値打ちがあるのだと信じています。事なかれ主義や馴れ合いやごまかしに染まらないことが存在する意味です。


4年前、高速道路のSA・PAに分割民営化後初めての宿泊施設を実現させた時、「政治家とのコネがあったんだね」と言われましたが、そんな方法があることを考えもせずに実現できたことが我々の誇りなのです。


先日、二代目経営者の多い業界の集まりに参加する機会がありました。人並み外れた情熱と実行力で起業した先代に比べ迫力に欠けると嘆く声もありましたが、二代目ならではの難しい立場や悩みもあるようでした。
老舗旅館はもちろん、宿泊業界も同族経営や世襲が少なくないようです。若い世代の方々がしがらみに囚われず進むことが大切だと思います。


リーマンショックや東日本大震災の傷も癒えないなか、2012年は隣国との領土問題や政治の混乱が続き、とても心穏やかに新年を迎えられる状況ではないようです。
海外からの旅行者が減り、国内でも観光旅行の手控えが顕著です。若者の車離れもゆとりや希望を失って消極的になっている結果かもしれません。
でも、旅は人間にとって本質的なもの、宿泊施設は一時の流行を追うべき事業ではありません。

あるお客様から「昔、赤ん坊を連れて泊まりましたが、今はその子が孫と一緒にお世話になっているようです」という便りをいただきました。何のサービスもない宿ですが、ご家族の思い出の舞台になっているわけで、こんな嬉しいことはありません。
また、車椅子での一人旅をされた女性から「気配りが心にしみました。旅に出るのが楽しくなりました。また、がんばれそう・・・」というメールをいただきました。


宿泊業は単調な仕事の繰り返しです。基本は地味な裏方仕事です。でも、人間が人間らしく生きていくために無くてはならない仕事だと信じて疑いません。商売繁盛、とはいかないかもしれませんが、笑顔と優しい気持を忘れず、時を紡いでいきたいと思います。


新しい年が、心のゆとりを失わない1年になりますように。


月刊「ホテル旅館」(柴田書店発行) 2013年1月号「2013年新春展望」より転載