地震発生以来、考え、悩み、迷い、決断する中で感じたこと、考え続けていることを、少しずつまとめておこうと思う。
1.会社のポリシーと個人の感覚
原発事故の影響で福島県内から避難してきた人達の宿泊を、何軒かの宿が断ったというニュースを聞いた。
体が震えるほどの怒りがこみあげてきた。同業者として情けなく、やりきれない気持ちになった。
「ファミリーロッジ旅籠屋」でもっとも大切にしていることは、予断・偏見・先入観にとらわれず、あらゆる人を等しく受け入れること、それが本当の意味で、自由で心豊かな暮らしや社会を支えることになる、という信念である。新しい社員が入るたびに社長研修で繰り返し話していることだ。
その裏には私なりの体験や信条があるのだが、そこまでは言わない。だから、何度語ってもピンとこない人も多いだろう。それに、平時はペット連れの宿泊や障がいのある人を積極的に受け入れるという程度の意味にしかならないから、問題になることもない。ほぼみんなの「常識」の範囲内におさまることだから、すんなり受け入れられてしまう。
ところが、今回のような非常時になると、それぞれの「常識」や「感覚」とのズレが表面化してくる。会社のポリシーと個人の気持の差が表に噴き出してくる。
宿泊施設の場合、過去にも、同様の事例があった。いくつかの伝染病患者や街宣車によるいやがらせを受けるおそれのある団体への宿泊拒否。こういう時に、突然のように会社のポリシーが問われることになる。社員は、勤務している会社への忠誠心や理解が問われ、会社は社員に対する姿勢、不安や動揺をどこまで受け入れ、どこまで受け入れないのか、が問われる。
今回、端的に問われたのは、福島第1原発から60km以内にある「いわき勿来店」「須賀川店」を一時閉鎖するかどうかという問題であった。もちろん、迷いに迷った末に最終的に私が決断したことだが、やはり悔しくて、悔しくてならない。
2.本社と現場の関係、トップと社員の関係
今回の大震災への対応について、政府や東京電力などに対する批判がかまびすしい。現時点で評論家のようにアレコレ言うのは何の足しにもならないし、慎むべきだと思うが、情報と判断の一元化が必要という指摘については同感である。
平時は、それぞれの部署で職務分担し、一定の裁量で動けばよい。何もかもトップに情報を集め、判断を仰ぐ必要などない。
しかし、今回のような場合は、事情が全く異なる。
そもそも、非常時において、社会や組織が瓦解し機能しなくなる原因は、外部ではなく、内部にある、というのが私の理解だ。
本社に正確な情報が集まらず、的確で迅速な判断ができず、一方で現場がそれぞれ独自の判断で動き、疑心暗鬼にかられれば、相互不信ばかりが広まり、収拾がつかなくなる。
こういう時こそ、トップは良い意味でワンマンになるべきだと思う。すべての情報を社員に要求し、遅滞なく判断を下し、具体的な指示を出していく。社員は、とりあえずトップを信じ、情報を上げ、指示に従い行動する。批判は後からで良い。
今回、被災地に近い店舗の支配人に対し、他店の支配人から「いつでも逃げておいで」という誘いがあったように聞いた。その暖かい心遣いはありがたいことだし理解できることだが、それは本社に対し申し出るべきことではないかと思う。
3.トップの覚悟
「自分の本音を聞け、本性を見よ」というのが、私の座右の銘である。
この10日間、何回か自分に問うてみた。
トップに確信やある種の覚悟がなければ、的確な判断などおぼつかないからだ。
企業のトップは船の船長のようなものだ。もちろん最後までひとり残るのは私である。何の迷いもない。
中心に立って判断し、全体をコントロールするという最大の責務さえなければ、いつでも危険のある店舗に行き、支配人として店舗を守る。自分の体が複数あれば、今すぐにアチコチに行く。
自問に対する自答は、毎回同じ。なんの揺らぎもない。
先日テレビのバラエティ番組で「偉い人たちは、なんで突然わざとらしく作業服を着ているんだ。なぜ現場に行かないのか。」と批判している人がいた。
こういう一面的で感情的で「一般受けする」発言こそ、無責任で取り返しのつかない内部の瓦解を招く。謹んでもらいたい。
4.鼓舞することと、冷静さを保つこと
非常時は、状況が刻々と変わる。予期せぬことが起きる。
茫然自失の状態になりそうな人間を鼓舞し、時には大きな声を出すことも必要だろう。
しかし、テンションを上げすぎて、周囲を委縮させ、浮足立たせるのは逆効果である。不安は伝播する。
トップはもちろん、本社のスタッフはこういう時こそ冷静でなければならない。
社員の安全や心身の健康を大切に考える姿勢は、もちろん変わらない。しかし、一時の感情に流されるわけにはいかない。会社のポリシーを守ること、長い目で見て社員の暮らしを守ること、必ず一度は踏みとどまって、総合的に判断する冷静さを保ち続けなければならない。
「非常時」と何度も言ってきたが、幸い、人間も店舗も無事であり、直接的な被害はほとんどない。会社の経営状態も安定しており、売上高や利益に一定の減少が予想される程度でのことである。新規店の工事や準備も変更なく進んでいる。
今後、原発事故の復旧状況などを見定めながら、一日も早く3店舗の営業再開を果たし、いつも通りの営業を続けていく。それこそが、最大の社会貢献だと信じている。
幸い、被害を受けなかった西日本の存在は、これからの日本の希望である。
同情や自粛は本当の意味での復興支援にはならない。



