新店舗の建築コストを合理的に節減するため、今年に入って工場製作部材について多くのメーカーと直接交渉を行った。結果として、旅籠屋用のオリジナル製品を組み立ててもらったり、調達ルートを一本化して安価な価格で供給してもらうことで話がまとまった。これも、「旅籠屋」の実績が認められ、コンスタントに店舗が増えていく見通しを信頼してもらえるようになったからこそである。
しかし、当然のことかもしれないが、その過程で、当社に対する信用調査の依頼があったようで、先月、東京商工リサーチや帝国データバンクの調査員が続けて訪ねてきた。「沼田店」以降、土地所有者に建物を建てていただき家賃を支払う方式での出店が続いているから、数年前から何度もこうした調査を受けており、調査員とも顔なじみになっていたりする。当社はIR情報をすっかりオープンにしているし、まったく何の隠し事もない、おそらくとても珍しい会社なので、調査自体にはもちろんなんの問題もない。逆に取引先の信用調査の売込みを受けたりして、無料で調査レポートが送られてきたりする。
というわけで、なにげなくそのレポートを眺めていたら、「***店」の建築をお願いした建設会社が昨年末に倒産していた事実を知った。工事自体は数年前のことだから当社が実害を被ることはないのだが、工事中に何度も顔をあわせて打ち合わせをしたその会社の専務さんの顔が思い出された。日本の金融機関のおかしな習慣で、中小企業の借金にはすべて役員個人の連帯保証が義務付けられたりするから、おそらく彼個人の生活も滅茶苦茶になっているに違いない。気の毒でならない。
先日も、出店候補地を探してくれていたある中堅ゼネコンの経営破たんがあり、担当者から律儀に電話をもらって、思わず励ましの言葉を送ってしまった。
幸い、当社は売上も支払いもすべて現金だから、他社の影響を受けることも、その逆もないから安心なのだが、もし手形商売だったらと思うとぞっとする。この不況の中、赤字会社でありながら、毎晩枕を高くして寝ていられる私は幸せ者かもしれない。
この周辺、浅草蔵前界隈は古くからの問屋や小さな工場が数多く集まっている場所である。ここ1年くらいの間、散歩の途中で、閉店の挨拶や差し押さえの文書を見かけることが珍しくなくなった。あの店員さんは給料をもらえたのだろうか、上に住んでいたに違いない社長さんの一家は夜逃げでもしたのだろうか、ついつい、そんなことを想像してしまう。気の毒でならない。
企業の経営破綻には、連鎖倒産のような不運な要因もあるだろうが、経営者にはやはり見通しの甘さやリスクヘッジを怠った責任がある。しかし、中小企業の場合、経営者自身が個人の財産や生活の場を失うということで、結果的にその責めを負わされているように見える。それにくらべ、相変わらず「減点されない」ことだけを行動の規範として逃げ回っている「大企業的な」サラリーマンたちの見苦しさが腹立たしくてならない。そんな余剰人員を飼っている会社こそ、はやくガラガラポンとなったほうが良いのだ。
利益の額だけで企業の価値が語られて良いとは思わない。なんでも競わせる社会が人間を幸せにするとは思わない。しかし、リスクを負って決断し行動している人たちの勇気が正当に報われる社会であってほしい。そして、つまづいても軽蔑されず再起できる世の中であってほしい。がんばってください、S専務!



