「ファミリーロッジ旅籠屋」1号店が誕生して、ちょうど10年になる。店舗もようやく10に増えた。
社内コミュニケーションの密度を保つためにも、初めて「全社会議」なる集まりを持った。
過去10年の概括、現状、そして今後の10年のビジョンについて語ったが、具体的な課題のひとつとして、「楽天トラベル」(旧 旅の窓口)などの宿泊予約サイトへの対応を取り上げ、方針を示した。
きっかけは株主総会での株主からの提案。
「旅行代理店などに依存しない」というポリシーを曲げ、例外的に登録に踏み切った。3年前のことである。
集客そのものよりも、存在を知ってもらうための広告宣伝の一環と割り切っての決断だったが、幸か不幸か年々集客の実績が上がってきている。
9月からは、販売手数料が大幅に上がり、実質10%になる。このままで良いのか、原点に立ち返って考え直すべき時ではないかという問題意識があった。
新聞報道によれば、すでに「楽天トラベル」経由の宿泊予約はJTBの半分程度になっているらしい。ビジネスホテルの中には依存率が20%を超えている所もあり、手数料の値上げは業界で大きな問題になっている。先日はテレビでも取り上げられていた。
宿泊施設の側からは、「寡占企業の横暴だ」「もっと手数料の低いサイトへ乗り換えよう」というような声が聞こえてくる。切実な問題であり、そうした感情は痛いほどわかるが、その次元で不満を言っても解決策は見えない気がする。
片方に多数のユーザーがあり、他方に多数の宿が散在する。それが、現場ではなく、予約という契約行為で売買されるのだから、ネットによるマッチングサービスに向いている面がある。好むと好まざるとに関わらず宿泊予約サイトの存在感はますます大きくなっていくに違いない。
加えて、大幅な値上げといっても、既存の旅行代理店の手数料よりは安い。
そして、何より、空室にするよりもマシなのだし、だからこそ登録し、実際、売上の増加を喜んできたのだから、感情的に異議を唱えてみても、根拠が弱い。楽天の強気も、ビジネスとして考えれば当然なことであり、そんな次元で議論していても勝負は見えている自業自得、他力本願のツケを払うしかないというわけだ。
物であれ、サービスであれ、直販に特化しない限り、サプライヤーと中間業者と最終販売業者は本来熾烈な主導権争いの関係にある。家電メーカーと量販店、メーカーと卸業者と巨大小売業者の血みどろの戦争は、過去何十年も繰り返されてきたことだ。
宿泊業界は、サイトビジネスであり、画一的でないことに安住し、自らを甘やかしてきたのではないか。
残念ながらというか、当然というべきか、新聞の記事もテレビの報道も、それぞれのすれ違いの主張を紹介するばかりで、こうした点に踏み込む問題意識さえ提示しない。
おそらく、宿の経営者の多くも、業界団体でさえも、どっちが得か、どう交渉しようかという戦術論に終始しているように見える。
理屈ではわかっていても、なんとなく面白くない。そういう感情の源に何があるのか。問題の本質はきっとそこにある。
集客を外部に依存すること、それは価格決定権を含めた自らの経営権を低下させることを意味する。手数料の支払いによるコスト増を認め、値引きを受け入れ、場合によってはサービスの内容さえ決められてしまう。宣伝を代行され、宿のセールスポイントも自らの言葉で語れなくなる。無意識に感じている不満の原因はそこにある。
自主独立の権利、それは企業の生命線である。その権利は命がけで守らなくてはならない。そのためには、自らの商品の差別化をはかり、自力で広くアピールしなければならない。
かつて、困難だったこうしたことが、ネット社会の出現によって、小規模な企業にも可能になってきた。端的にはホームページの開設や電子メールの活用である。
ネットは分散処理の世界。人類が、歴史上初めて手にした、中央集権的でない個別分散型の双方向の情報伝達環境だ。無数の個人やグループや組織が、特異性を維持したまま存在しうる、本質的に多様性を内包した世界だったはずだ。
工場生産品でない宿泊施設が個性を売り物にするなら、こうしたネット世界に活路を見出し、ネットの特性を守るよう働きかけていかなければならない。
楽天は、IT業界の寵児ともてはやされているが、一度、彼らのネット観を尋ねてみたい気がする。
「旅の窓口」時代は許容していた個々の宿自身へのリンクボタン、それをすべて消し去ったのはなぜか。
千差万別の施設の紹介を画一的なフォーマットに押し込め、価格帯で検索させるのはなぜか。
ポイント制をスタートさせ、リピーターさえも直接予約から遠ざけようとするのはなぜか。
答えは簡単。マッチングサービスを成立させやすくするために、利用者と宿の多様性を単純化したいからだ。それが、手数料ビジネス発展の最短距離だからだ。
しかし、それでいいのか。ネット社会の未来はそれでいいのか。情報が単純化され、記号化され、多様性を失っていくことでよいのか。情報を一部の企業が寡占する世界に戻すことでよいのか。
いつものように「あるべき論」にたどり着いてしまった。「ビジネスの本質は、効率である」という主張に徹する人たちとはここでお別れである。
私、そして「旅籠屋」のモチベーションと存在意義は、別の道の上にある。
前者会議で示した方針? 結論だけ言えば、当面登録継続である。
そう、中小企業はじっくり、しつこく、したたかに行く。



