(社)日本道路協会の機関誌「道路」2008年8月号に掲載された拙文を以下に転載する。
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ハイウェイホテルの存在意義とSAPAの役割 株式会社 旅籠屋 代表取締役 甲斐 真
「壇之浦PA」と「佐野SA」に、相次いでハイウェイホテルが誕生した。
当社は、欧米に無数に存在するMOTELのような、マイカー旅行者が誰でも気軽に利用できるロードサイドホテルを我が国にも誕生させるため、「ファミリーロッジ旅籠屋」をチェーン展開してきたが、「壇之浦PA店」と「佐野SA店」についても、提案段階からプロジェクトに参加し、両ホテルの経営と運営を担っている。
SAPAに宿泊施設を設ける意味や条件、現状と課題、そして今後のSAPAのあり方について、率直な意見を申し上げたいと思う。

「壇之浦PA店」(右奥)
●はじめに
関門自動車道「壇之浦PA」(4月下旬)と東北自動車道「佐野SA」(7月下旬)に、西日本高速道路・東日本高速道路にとってそれぞれ初となる宿泊施設がオープンした。これらのプロジェクトに参加し、両ホテルの経営と運営を担うことになったことは、当社にとって限りない喜びである。企業としての損得で申し上げているのではない。7年前、道路公団の時代からSAPA内への宿泊施設の設置の必要性を強く訴えてきたが、その第一歩が踏み出されたこと、そのことが何よりも嬉しい。
率直に申し上げて、現時点で当社にとって利益が見込める確信などまったくない。20年という契約期間を通してずっと赤字を背負う事業になるかもしれない。しかし、我が国に欠落していた基盤施設が誕生することによってマイカー本来の利便性が発揮され、合理的な旅行スタイルが可能になり、モータリーゼイションの発展と成熟に近づくことができる。日本人のレジャースタイルや生活スタイルに新しい選択肢と自由を提供することができる。そのことに価値がある。これこそ、当社の創業目的であり、変わらぬ理念であり、存在意義だからだ。
●MOTELをお手本に生まれた「ファミリーロッジ旅籠屋」
アメリカを車で旅すると、行く先々の街や村で、MOTELという看板を掲げたミニホテルを数多く目にする。モーテルというと、日本ではカップル専用のラブホテルを連想する向きが多いが、本来は、車で旅する人が誰でも気楽に利用できる、素泊まりのロードサイドホテルのこと。ほとんど何のサービスもないかわりに、とても自由で、驚くほど安く泊まれる。高級ホテルと異なり、ゴージャスでリッチな気分を満喫するというわけにはいかないが、子供連れの家族旅行や友人とのドライブ、そしてビジネスでの宿泊には必要十分な施設であり、実際、アメリカでは、店舗数が1000を超えるチェーンがいくつもあるなど、その数はガソリンスタンドやコンビニエンスストアなどより多く、車社会になくてはならないインフラ施設として人々の生活を支えている。この事実を知っている人は意外に少ないようだ。
当社の「ファミリーロッジ旅籠屋」の構想は、こうした自由で経済的な宿泊施設を日本にも実現させることを目的にスタートした。2度のアメリカ視察を経て、1995年8月、待望の1号店が誕生。以来13年、日本では先例のない業態であり、さまざまな困難にも直面したが、予想を越える多くのご利用と「こんな宿泊施設を待ち望んでいた」との声を励みに、北は秋田・岩手から、西は山口まで26の直営店舗を展開するに至っている。
●SAPAに宿泊施設を設置することの意味と条件
すでに7000kmを超える高速道路が整備され、広域のネットワークとして機能している。必然的に長距離のドライブが増えており、運転者が安全かつ快適に長時間の運転を行うためには、物販・飲食に加え、十分な休憩をとれる施設が必要不可欠である。これがSAPAに宿泊施設が存在すべき基本的な理由である。楽しさ、新しさ、といった言葉が冠せられ、SAPAを活用する収益事業という表現も見受けられるが、それは本質的なことではない。宿泊施設はトイレやガソリンスタンドと同じように、本来「なくてはならない」施設なのであり、すべてのSAに存在して不思議ではない施設なのである。
さて、こうした宿泊施設に求められる条件とは何か。基本は3つあると考える。
第1は、誰もが泊まれるという汎用性。家族や友人グループなど数人での宿泊にも、ひとりでの宿泊にも対応できる施設であることが求められる。ビジネスマン向けのシングルルーム中心のホテルでは利用者の多様性に応えられない。「ファミリーロッジ旅籠屋」の場合、客室はバストイレを含め約25㎡の広さがあり、幅1.5mを超えるクイーンサイズのベッドを2台設置しているため、季節や曜日によって利用者の構成が変化してもすべての客室を利用いただくことができる。もちろん、将来、客室構成の異なる複数の宿泊施設が並存することになり、全体として対応可能であれば条件を満たすことになる。
第2は、宿泊特化。SAの多くに24時間営業の飲食・物販施設がある。宿泊施設自体がこうしたサービスや機能を持つ必要はどこにもない。限られたスペースを浪費する無駄な設備投資は行うべきではない。ただし、24時間営業の施設を持たないSAPAの場合この限りではない。
第3は、安価な料金設定。誰もが気軽に利用できるためには宿泊料は低廉でなければならない。「壇之浦PA店」「佐野SA店」の場合、他の「ファミリーロッジ旅籠屋」と同様、レギュラーシーズンなら家族4人で1室10,500円、2人なら1室8,400円、ひとりなら5,250円としている。十分にリーズナブルな料金と考えるが、いかがだろうか。SAPA内に広大なスペースがあって多様な宿泊施設が立ち並ぶような場合も、少なくともひとつはこうした料金の施設が必要だと考える。
●「壇之浦PA店」「佐野SA店」の現状
4月23日にオープンした「壇之浦PA店」(14室)の6月末までの客室稼働率はちょうど55%である。まずまずの滑り出しというところだが、これから夏休みに入り、初年度60%という当初目標をクリアーできればと期待している。ちなみに、利用者の構成は1/3が子供連れのご家族、ビジネス利用も少しずつ増えて2割近くになっている。ここは、PA側だけでなく、一般道路側からもアクセスできるが、ほぼ半数ずつという状況である。
「佐野SA店」(14室)は7月24日オープンのため、現時点ではまだ実績値が存在しないが、予約開始が遅れたこともあって夏休みの予約が低調である。ここは一般道路側からのアクセスができないが、どのように利用されるのか、どのような旅行目的の方が宿泊されるのか、ひじょうに興味深い。
今まで、多くのドライバーにとって高速道路は一刻もはやく目的地に到着するために通過する線であり、滞在する対象ではなかった。現時点で両ホテルの認知度はまだまだ低いが、たとえ知られてもどのように活用してよいのかイメージが湧かないという状況ではないだろうか。他の「ファミリーロッジ旅籠屋」と同様、口コミで少しずつ利用者が増え、SAPA内のホテルならではの利用がなされ、存分に活用されることを願っている。
●SAPAにおける宿泊施設具体化の課題
ご承知のとおり、アメリカの場合、高速道路の大部分はフリーウェイ、つまり無料である。本線脇のレストエリアにはトイレしかない場合が多い。出入り口が頻繁にあり、そのつど周辺の飲食施設や宿泊施設の案内看板があってドライバーを誘導してくれる。出入り自由だから、高速道路自体がこうした利便施設を設ける必要性がないのだ。しかし、日本の高速道路は基本的に閉じた空間であり、寄り道をすると通行料が割高になることもあって、SAPAに多くの機能が求められることになる。
ここで重要なことは、日本の高速道路の在り様はこうした与条件のもので整備されたに過ぎず、何もかも「公的機関」が計画的にすべてを用意する必要はないということである。既存の状況を唯一の当たり前のものと考えるべきではない。既成概念や先例主義にとらわれず、本質的かつ長期的な視点で大胆に発想し議論する必要がある。
「壇之浦PA店」「佐野SA店」の具体化には、他の「ファミリーロッジ旅籠屋」の場合と異なるさまざまな手続きが求められ、当初の計画をはるかに越える長い月日を要した。初めての試みであるため、止むを得ない面もあるが、これらの経験に学び手続きの簡素化や基本的な取り組み姿勢を変えていかなければ、高速道路全体の利便性を飛躍的に高め、車社会を発展成熟させる芽を摘んでしまうことになる。
語弊を怖れず、解決すべき課題を3点挙げたいと思う。
第1は、SAPA内に施設を設ける際に求められる連結許可手続きの問題である。まず、審査会が半年に1度しか開催されず、プロジェクトの進行が滞ることがあった。今後は、持ち回りで随時審査されるようになると聞いているが、これは大きな改善だと思う。ちなみに、道路公団が分割民営化された目的のひとつは、各高速道路会社が創意工夫を行い、コスト意識を高めながら、自主的に事業の改善と発展を推進していくことにあったと理解している。とすれば、年度ごとの予算主義や随意契約への規制は、ダイナミックな事業運営の足かせとなる。もし、そういう発想や規制が残っているとすれば、厳しいけれど自由な「民間企業」に脱皮されることを願ってやまない。さまざまな事情や深慮遠謀があるにせよ、お役所的な「先回りした指導やルール」は過保護や過剰規制となって企業の健全な発展を阻害する虞がある。保有機構や国土交通省の後ろからのサポートに期待する次第である。
第2は、高速道路会社自体に残るお役所的な雰囲気である。あくまで印象に過ぎないが、本社から現場への指示命令系統がスムースでなく、あわせて監督官庁や自治体などお役所の顔色をうかがう臆病な体質が感じられる。目先の決済や許認可を通すことが目的になり、本質的な議論や検討を避けて波風を立てないことに腐心しているように見える。これは大企業全般に共通する体質だが、もっと誇りと自信を持ってチャレンジしていただきたい。とかくマスコミは問題点ばかりを批判するが、アメリカに比べ日本の高速道路がいかに快適に整備されているかを主張してよいと思う。かつてのオイルショックの時と同様、地球温暖化防止が叫ばれる中で再びマイカー使用が批判される風潮が出始めているが、誰もが、いつでも広範囲に移動できるという「自由」の価値は限りなく尊く重い。モータリーゼイションという概念の基本的価値の根本には経済的合理性よりも前にこうした価値があるのであり、高速道路の運営者は普遍的な「文明」や「文化」を支え守っているという自負と責任を持っていただきたいと思う。
また、「佐野SA店」においては具体化に数年以上の年月を要したことから新規のプロジェクトでありながら、途中で担当者の異動が何度もあったことは残念なことだった。機械的な定期人事によるものであったとするなら、立ち入った意見ではあるが一定の配慮があって然るべきではなかったかと思う。
第3は、高速道路に限った問題ではないが、市街化調整区域における宿泊施設の建築制限の問題である。都市計画法によれば、無秩序な開発を防ぎ、生活インフラの整備を総体的に保証していくため、あえて市街化を抑制する地域を定め、原則として建物などの建築を厳しく制限している。ただし、車で通過する人たちに最低限の利便性を提供する「沿道サービス施設」を例外と定め、ガソリンスタンド・小規模な飲食・物販施設の建築を認めている。問題は、その中に宿泊施設が含まれていないことである。「佐野SA」は、従来道路関連施設として都市計画の対象外であったが、民有地になったことによって地域地区の指定を受けることになり、周辺にならい市街化調整区域と指定されてしまった。閉じたエリアであるSAを周辺の指定に合わせるという判断も理解しにくいことだが、そもそも車社会のインフラ施設であるべきロードサイドホテルが「沿道サービス施設」に含めれないことが不合理である。そのため、14室のミニホテルを建築するにあたって、SA全体の開発行為申請を行い、多くの手間と時間を要することになった。
これまで日本において欧米のようなMOTELが普及しなかった原因のひとつにはこうした法的規制がある。法律は現状の後追いになるのは止むを得ないことだが、今後、ロードサイドホテルの普及にともない適切な改正がなされるよう働きかけを行っていかなければならないと考えている。一企業の利益誘導になる、というような批判を受けることが容易に想像できるが、求めているのはそのような矮小な次元のことではない。

佐野SA店
●SAPAの将来について
ここ数年、スマートインターやウェルカムゲートなど、外部に開かれたSAPAを推進する動きが具体化している。前者については、インターの距離が離れているために、道路周辺の人々に十分活用されていない現状を比較的低コストで解決する妙案として歓迎されている。後者については、SAPA内の商業施設が周辺住民に利用可能になることによる利便性と収益性の両面の貢献が評価されている。
もちろん、こうしたメリットはその通りなのだが、本質的な議論が深められていない気がする。例えば、大都市圏内のSAに大型のショッピングモールを建設して周辺からの買い物客を集めたり、自動車のショールームを設けるなどのアイデアには疑問を感じる。高速道路外で足りているサービス施設をわざわざ限られたSA内のスペースに設置して利用者を呼び込む社会的必要性がどこにあるのだろうか。オープン化の目的のひとつがSAPAへの集客のためにあるとすれば、高速道路の存在意義を逸脱しているように感じる。
私見だが、SAPAのオープン化は、内から外に対しては地域のハブとして機能することによって地域の活性化に寄与すること、外から内に対してはSAPAを利便施設として周辺に開放して地域に貢献することが基本的な目的になるべきではないかと考える。
前者については、周辺の自治体や観光協会の案内窓口を設けて地域のPRや情報提供を行い、高速道路を下りて周辺の観光・飲食・物販施設へ誘導するような機能を強化すること。
後者については、公共性のある施設の少ない地方の郊外で有効だと思うが、商業施設だけでなく、高速道路の広域性を生かして病院や診療所を設けるのも意義のあることだと思う。ガソリンスタンドの再編が進んで数が減少する中、SA内のスタンドを外部から使えるようにするのも一案である。
こうした観点に立てば、SAPAに入って高速道路を走行せず再び出て行くという利用は例外ではなく積極的に認め促進していくべきである。現在、こうした利用についての可否や料金についての方針が明確に定められていないようだが、利用料金は無料もしくは最低限の金額としていただきたい。
●おわりに
当社は、創業から十数年のベンチャー企業である。いろいろと批判的なことも申し上げたが、当社をビジネスパートナーに選び、先例のないプロジェクトを推進された西日本高速道路・東日本高速道路の決断には心より敬意を表したい。
ようやくふたつのホテルがオープンしたが、利用する人々に喜ばれ、地域に貢献する施設としていけるかどうか。良き先例となって全国に広まっていくかどうか。それは、間違いなく、ホテルの経営と運営を担う当社の責任である。新しい旅のニーズに応え、高速道路の新しい活用に道を開く施設として、全力を尽くす所存である。末永いご愛顧ならびにご指導・ご鞭撻を賜りたい。



