去年の後半から兆しはあったのだが、今年に入って店舗の支配人不足が顕著になった。
コンスタントに続いていた応募がなぜか途切れがちになっていたところに、新店舗のオープン(今年は7店)と病気・介護・定年による退職者の増加が重なった。
かといって、9割以上が予約によるお客様なので、店を閉めるわけにはいかない。かわりに本社スタッフが「代行支配人」として店舗に赴くが、次第にその頻度が高くなり、ここ数ヶ月は、常に本社社員の過半が出張中という状況が続いた。全員が顔を揃える日は月に1度くらいで、重要な打ち合わせもままならない。
9月からは役員も交代で店舗に泊り込むことになり、私も2回、十数年ぶりに「支配人」を務めた。客室を掃除し、予約を受け、フロントに立ってお客様をお迎えする。20年前の1号店支配人としての3年間が思い出される。


朝食の準備を終えると、チェックアウトされた客室をまわり、窓を開けて換気し、リネンやゴミを回収し、バスタブや便器を洗い、ベッドを作り、掃除機をかける。10室を超えると午後3時のチェックイン開始時刻に追われながら数時間の作業になる。予約の電話対応やメールチェックも並行して続く。乱れた部屋が整っていく達成感はあるものの、正直言って、決して楽しい作業とは言い難い。そんな気分を久しぶりに味わった。


素泊まりの宿の日常業務は地味で単調である。おいしい料理や美しい飾りなど、お客様を驚かせる「華」がない。マイナスをゼロにする作業で、プラスを演出する喜びを感じることが少ない。
これは、ベーシックなインフラ施設を維持する仕事に共通する宿命かもしれない。電気・水道・ガス・通信、道路・鉄道・物流、滞りなく流れていて当たり前、清潔に整っていて当たり前。


立場を忘れて言うが、私は黙々と職責を果たしている支配人に敬意を抱いている。仕事なんだから当たり前、という見方もあるだろうが、義務感だけで続けられる仕事ではない。3年間、ほぼ休みなく務めた私の実感である。
社内でいつも言っていることだが、建物内外の清掃やグリーンのメンテは、目に映る姿の背後に人の心が透けて見える。店舗を訪ね、気持ちよく整えられた雰囲気に接したときに浮かんでくるのは、経営者としての満足感ではなく、人間として頭が下がる思い、嬉しくなるような共感である。
もちろん、逆の場合もある。しかし、一方的に責める気にはなれない。延々と続く日常はとても重い。鬱屈した思いが伝わってくる。閉塞感に苦しむ気持ちもわかる。
日々のストレスを軽減する配慮ができないか、少しでも改善する手立てはないかと考えるが、ひとりひとりの性格や人生観もからむので、単純な対策で解決できるわけではない。人間は機械ではない。
お客様のかけがえのない旅の時間を支えているという自覚や、たまに寄せられる感謝の声を自分自身の喜びとして、と言うのは容易だが、人生経験から得られる心の余裕やある種の達観がなければ難しいことのように思う。


「ファミリーロッジ旅籠屋」はすべて直営であり、支配人はすべて当社の正社員である。人生を共にするふたりが店舗に住み込み、文字通り力を合わせて運営業務を行っている。最初に2週間ほどの研修を受けた後、半年から1年の間、支配人が休暇の際の「代行支配人」として、全国各地の店舗を回る。この期間は移動も多く、数日おきに勤務地が変わるため、気苦労も多い。しかし、その経験が支配人になるための貴重な財産になる。これは、お互いに適性を見極める期間でもある。。
いっぽう、「代行支配人」専門の人たちも十数組いる。前の職場を定年で退職した中高年の夫婦が中心だが、最近では旅籠屋支配人の経験者も加わるようになって来た。
山あり谷ありの人生を共に歩んできた二人だからこその気負いのない雰囲気、人生の達人と呼びたいような素敵なカップルが多い。


初めて積極的な求人広告を行った効果もあり、おかげさまでたくさんのご応募をいただいた。年明けには人手不足がほぼ解消される見通しだ。
しかし、本社スタッフによる「代行勤務」は、来年も続けていく予定である。店舗の実際の状況を感じ、支配人の気持ちを理解することが、すべての基本である。
支配人たちの笑顔が消えたら、私たちの会社が存在する意味の半分はない。